ベトナム、ホーチミン市 は、フランス統治下に街並みが整備された。今でも都心部の広い大通りには、巨木の並木が至る所にあり、フランス風コロニアル建築の洋館が点在している。その欧風に洗練された優雅さは、ホーチミン市の旧名であるサイゴンに因んでサイゴン風とか、サイゴン流とか呼ばれ、また、東洋のパリ、極東の真珠と称される。
縦横にきれいに交差する大通りと大通りに囲まれたエリア内には民家が密集し、そこに辿り着くには、hẻmと言われる路地に入り込まねばならない。
hẻmには、直ぐに突き当たる短いものや、延々とエリア内に広がっているものもある。
勿論、車は侵入できないところが多いし、何とか人一人が通れるような狭いhẻmもある。
hẻmの中に入って行くと、店先に調味料や駄菓子を所狭しとぶら下げた小さな雑貨屋さんや、ただ椅子だけを並べたカフェもある。民家の窓やドアは開けっ放しで、裸のおじさんが部屋の中で寝そべっていたり、パジャマ姿の子供達が遊んでいたりする。玄関脇では、放飼いの犬が穏やかに寝てることもある。
大通りに面したバイクのクラクションの喧騒とはかけ離れた静寂があり、時に、全く不釣り合いにおしゃれなカフェやレストランを発見することもある。
このhẻmの入り口には、” khu phố văn hóa “という横断幕が掲げられた所をよく見かける。直訳すれば「文化地区」という事だ。
日本で文化地区といえば、文化、即ち、教育施設や公園や、歴史的な遺産があったり、時には美術館やスポーツセンターなどがあるような、精神的に豊かな生活を提供してくれる地域を連想する。
この”văn hóa “という言葉は、日本語の「文化」と全く同じで、日本文化、文化財、などのように使われる。一方、文化住宅、文化生活、という使い方があるが、文化包丁、文化鍋、となると一体何を言っているのか訳が分からなくなる。
大辞林で文化を調べると、誰もが直ぐに分かる文化の意味の他に、
③世の中が開け進み,生活が快適で便利になること。文明開化。
④他の語の上に付いて,ハイカラ・便利・新式などの意を表す。
とい意味があるようで、文化包丁がハイカラで便利かどうかはともかく、あゝそういうことか、とある程度の納得はできる。
しかし、ベトナムのこの文化地区は、まだ少し違うようだ。
この「文化地区」は、地域の人民委員会(日本なら役所、県や市や区みたいなもの)から、名誉ある称号として与えられているらしい。
一定の条件があるらしく、この地区では、喧嘩や犯罪もなく、税金もきちんと納め、いわゆるgood behavior たる人々が暮らしている地区だということのようだが、当のベトナム人達も、何故”văn hóa “「文化」なのかは、よく解らないようだ。
ともあれ、安全で暮らしやすい街づくりの為の行政施策の一つである。
因みに、人民委員会は、”gia đình văn hóa “「文化家族」という表彰も行っている。どこでどう選ばれているのか分からないが、突然、賞状が届くという。
日本のテレビでは、「文化人」と称される方々が多数出演されているが、さて、この「文化」は、ベトナム風の意味を合わせてみても、うまく当てはまらない。
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